青春国道202
朝はゆっくりめに起き、シャワーを浴びたあと、14:50にバスで新地バスターミナルから、茂里町にて車窓から見えた建設中のTOHOシネマズに「大丈夫か?」と余計な心配をしつつも、国道202号線を畝刈(あぜかり)や三重、長崎漁港を経由し、桜の里営業所に向かい、更に板の浦行に乗り換える。
首都圏ではあまり見かけない方式だが、一つのターミナルから放射線状に路線網を作るのではなく、一つのターミナルと複数の小規模ターミナルを結ぶ路線を作り、更に小規模ターミナルから小さな集落方面へ小さなバスを動かした方が効率的ではあるわな。



平日であるせいか、バスには女子高生や買い物袋を持った人、お年寄りなど、地元の人と思しき人しか乗っていない。 まず最初の目的地である「黒崎教会前」で降りる。新地バスターミナルからの所要時間は1時間半。ちょうど西武バスの「所沢駅東口-大宮駅西口」路線と同じくらいだろうか? かんかん照りの空の下、石の階段を昇り、教会に向かう。ふと見上げると、誰かが仁王立ちになって自分の方を見つめている…と思いきや、マリア像だった。マリア像はまるで交通安全目的でよく田園地帯の県道沿いに置かれているプラスチック製の「おまわりさん人形(白バイ隊バージョン)」にも見えてしまい、別にやましい事をしている訳でも無いのに、額から流れ出た汗は果たして暑さから来る汗だったのか?それとも冷や汗だったのか? 金剛力士像でもおまわりさん人形でもないことを確認し、煉瓦造りの堂の中に入ってみることにする。 堂の中には誰もおらず、暑さと明かり取りのために窓があけてあるものの、中は薄暗い。後ろの壁には地域のお知らせの紙が貼られていたり、ホワイトボードには堂の使用予定表がある。どうやらミサなどカトリック関連のイベントだけではなく、公民館的な使われ方もされているようだ。 資料によると、明治時代にこの教会を設計したマルク・マリー・ド・ロ司祭は布教だけではなく、建築だけではなく、農水、医療などに長けた技術屋だったらしく、今においても「ド・ロさまそうめん」といった製品があることから、山形・米沢における上杉鷹山や、北海道・松前における千代の富士的な存在なのだろう。
バスは1~2時間に1本しか無いので、国道を出津(しつ)方面に歩くことにする。
途中、道路工事現場に遭遇し、片側交互通行の交通整理をしている人に声を掛けつつ、角力灘を左手にてくてく歩く。途中、この辺では最高地点と思われるところに「黒崎中学校」が建っており、集落が海岸近くに建っているのに、敢えて山頂付近に学校があるのはある意味拷問なのでは?と考えてしまう。大人は免許さえ取り、車やバイク等があればどこへでも行けるが、子どもはそれが出来ない訳だし。
17時頃。道の駅でしばし休憩。冷房の効いた室内でペットボトルのお茶を飲みながら身体を休める。
すぐ隣には遠藤周作記念館があるが、17時なので既に閉館してしまっており、外観を見るだけで終わる。そう言えば、昔NECのワープロ専用機「文豪 mini」のCMに出ていたよな…とか、マーティン・スコセッシはいつになったら「沈黙」を映画化するのか?といったことを思い出す。

再び歩き出すこと20分。出津(しつ)という集落に辿り着く。ここには同じくマルク・マリー・ド・ロ司祭が設計した出津教会や、資料館が点在しているが、 17時を回っているために既にみな閉まっている。国道沿いのため、車の交通量は多いが、人の姿は殆ど見かけない。しかし、ごくたまにすれ違う、中学生と思しき生徒たちにすれ違うたび、「こんにちは」と挨拶されるので、平方さんも「こんにちは」と挨拶する。一体、見知らぬ人にすれ違いざまに「こんにちは」と挨拶するなんてどれ位ぶりだろうか?と考えると同時に、互いの顔を知る、地元の人どうしとは違う、よそ者の平方さんに対しても挨拶をするという事は犯罪等とは無縁なエリアなのだなということを感じさせる。

お腹もすいたし、喉も渇いたので、程近い食堂に入り、生ビールを飲み、「ド・ロさまそうめん」を食べる。
暑い最中を歩き続けたせいか、生ビールがすこぶるうまく感じる。こんなにうまいビールを飲むのはひさびさである。
「ド・ロさまそうめん」は肉と青ねぎが乗っかっているアゴだしにゅうめんだ。このそうめんは昨今にあるような、歴史上の人物の名を騙った「一点突破」的な商品ではなく、ド・ロ神父自らが地元の材料で作り上げたそうめんである。しかし、そうめんそのものに欧州的な要素は無く、「和魂洋才」ではなく、「洋魂和才」的な郷土料理だ。
お腹も空いていたこともあり、一気に食べてしまった。

18:15。店を出て資料館近くの高台に昇り、平方さんは沈み行く夕陽を眺めている。
写真映りはあまり良くないが、夕陽は、つい30分程前までインディゴ・ブルーだった海を一面、平方さんが知っているオレンジ色よりも強いオレンジ色で染め上げ、同時に平方さん自身をも淡いオレンジに染めている。平方さんはそれをただただ見ている。
周囲には観光客どころか、地元の人もいない。この時、この風景を眺めているのは平方さんただ一人だ。
やはり、毎日都心で仕事に精を出していても、たまにはこうやって自然の中に入る事が非常に大事であることを感じさせる。数年前、暫く富士山麓に篭っていた時のように。